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自己を受胎させたマチエール
〜上前智祐の絵画をめぐって〜
具体美術協会とは画家吉原治良の指導下、第2次大戦後の関西で産声を上げた伝説的な前衛美術家集団である。ミスター・グタイとも称される吉原が、「誰もやっていないことをやれ!」と若い会員たちを叱咤したというエピソードは余りにも有名だ。「グタイ」とか「GUTAI」とも表記されるのは、海外にも早くからその名声が轟いていた証だろう。上前智祐は1954年の会創設に加わった最古参の一人であるから、当然のことながらその栄光の恩恵に浴してもおかしくはない。きっと地元の関西ではそうだったかもしれないが、なぜか東京や他地域で具体というと、吉原は別格としても必ずといっていいほど名の挙がるのは、白髪一雄や元永定正、村上三郎、嶋本昭三、金山明、田中敦子らに限られて、上前の存在は見過ごされがちであった。
その仕事が見劣りするならまだしも、上前の芸術は決して格下ではなかった。にもかかわらず、時流が上前よりも白髪や元永、村上らを選んだのはほかでもない。師匠の「誰もやっていないことをやれ!」というアジテーションに、白髪らは奇想天外なアクションなどで応じたが、上前は物いわぬ物質との対話を介して、ただ黙々と絵筆を振るっていただけだからである。美術に限らず、どんな集団にあってもその成員は動か静か、陽か陰か、派手か地味かといったタイプや役割をいや応なく担わされるものだ。世間の目を一瞬のうちに引き寄せる身体表現にくらべ、密室で絵画に打ち込んでいた上前の地道な探究がいずれに映ったかは火を見るより明らかだろう。しかし珠玉の絵画を集めた今回の個展によって、上前が日本の現代絵画史にどれだけたわわな果実を実らせてきたかを、この東京でも再認識せずにはいられなくなる機会がやってきた。
そこには1960年代から油彩や1980年代からの縫いシリーズなど、近年に至るまで時期ごとの作品が選ばれていて、上前芸術とは疎遠だった観客もおよその作風の変遷をつかむことができる。だが、その展開の多様さに優るとも劣らないのが、一貫して表現の通奏低音をなし続けてきたところの、雄弁な言葉をつむぎ出してやまない物質的な絵肌にほかなるまい。ゴッホばりの長めの点描をリズミカルに積み重ねた画面のように、それは厚塗りした油絵の具だけからたらされる場合もあれば、絵の具チューブの口やからまり合うオガクズなど生の物質を彩色して盛り上げたような場合もある。像を封じられた非具象絵画においては、個の独創はマチエールのうちにこそ受胎されることを、たぶん上前は他のだれよりも知り抜いていただろう。物質を飲み込んだマチエールから、深々と自己の刻印された表現が立ち上がってくるということを。
三田晴夫(さんだ・はるお)
上前 智祐
1920
京都府生まれ
1954
具体美術協会結成に参加 72年に解散
(第一回展より全展に出品)
1958
新しい絵画世界展−アンフォルメルと具体− 高島屋 大阪
具体ニューヨーク展 マーサ・ジャクソン画廊 アメリカ
1965
具体パリ展 スタドラー画廊 パリ
1966
個展 グタイピナコテカ 大阪
具体オランダ展 デンパーグオレッツ国際画廊
現代美術国際展 ローザンヌ スイス
1970
万博みどり館に於ける具体展 大阪
1971
ヒロシマルネサンス展 広島県立美術館 広島
1982
墨画による個展 大阪府立現代美術センター 大阪
幻の山村コレクション展 兵庫県立近代美術館 神戸
1985
絵画の嵐展−アンフォルメル・具体・コプラー 国立国際美術館 大阪
1990
前衛日本展−1950年代具体グループ− ローマ国立近代美術館 イタリア
1992
縫いによる上前智祐自選展 ABCギャラリー 大阪
1996
前衛作家の十年=その自己変容と持続= 板橋区立美術館 東京
1999
上前智祐展 大阪府立現代美術センター企画 大阪
具体パリ展 フランス国立ギャラリー ジュ・ド・ポーム フランス
2000
大阪市所蔵作品110選展 大阪市立近代美術館(仮称) 大阪
2001
縫いによる個展 伊丹市立工芸センター リニューアル記念企画 兵庫
版画による個展1100 マジソンスクエア ニューヨーク アメリカ
国際丹南アートによる紙と現代美術展 福井市美術館 福井
2004
「具体」50周年記念回顧展 兵庫県立美術館 神戸
2005
上前智祐と具体美術協会展 福岡市美術館 福岡
2006
上前智祐の世界展 大阪府立現代美術センター企画 CASO美術館 大阪
2007
新作版画による個展 ギャラリーLADS 大阪
国立国際美術館の30年分のコレクション展 大阪
2008
個展「具体から現代」 ギャラリーLADS 大阪
個展「具体美術 その後」 DOKA Contemporary Arts 東京
三人展 三重県立美術館 三重
パブリックコレクション
芦屋市美術博物館
兵庫県立美術館
大阪府立現代美術センター
大阪市立近代美術館(仮称)
国立国際美術館
板橋区立美術館
新潟市美術館
福岡市美術館
北九州市美術館
町田市国際版画美術館
舞鶴市市政記念館
トゥールーズ近現代美術館(フランス)
著書
とび出しナイフ       (1976)
自画道           (1985)
現代美術−僕の場合− (1988)
孤立の道(画集)      (1995)
ある人への返事      (1998)
版画作品          (2000)
非具象の仕事       (2002)
〜具体美術 その後〜
上前 智祐
2008年5月9日(金)〜17日(土)
11:30am - 7:00pm (日曜休廊)
DOKA Contemporary Arts
〒107-0062 東京都港区南青山7-1-12
TEL : 03-3407-3477
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