野嶋奈央子の個展会場で作品を見て、その鮮やかな色彩と形容し難いイメージの虜となったのは数年前のこと。そのイメージの魔術を解明すべきDOKAでの企画展開催を誘ってみた。野嶋の作品は赤やピンクなどの派手に見えるが品位を保つ色彩が画面に流れ出し、曖昧模糊とした形状は解読を拒むようにも見えるからだ。
野嶋のブログには「私の作品は私小説ならぬ私絵画で心象風景みたいなもの。自分でも手に負えない無意識≠制作しながら拾い集めて曖昧なまま形に残している作業」「作品に落とし込まないと消化できないものが自分の中に確実にある」と綴られている。
野嶋の作品タイトルがこれまた軽妙洒脱で謎を孕んだ詩のようである。見る(読む)ものに「わかるかな私の気持ち」と問いかけながらも、「わかって堪るか私の気持ち」と諦めているようにも見える(読める)。野嶋の作品は、私小説ではあるとしても、同世代にとっては理解し合える時代の空気感や虚無感を代弁しているのではないだろうか。
3.11以降、野嶋の作品にも影響が現れた。今回出品されている「その箱の外側の外側は内側」4点組も、その形状と作品数である解釈をされる方もいるであろう。しかし野嶋にとっては建造物や植物など日常生活で引っ掛かった拘りを作品に形象化しているに過ぎない。その自然な営為の清歌は、過ぎゆく日常生活を真摯に生きていく証として、見るものの魂を震わせるに違いない。 五十嵐 卓 (美術評論家、損保ジャパン東郷青児美術館キュレーター) |